LPI-Japanオンラインセミナー レポート
データベース技術者のための“自分アップグレード”セミナー「OSS-DB Goldの取得で何が変わる? いま現場で実践スキルのあるエンジニアが求められる理由」(2024年10月3日開催)より
株式会社アシスト
ビジネスインフラ技術本部データベース技術統括部
小笠原 宏幸 氏
今データベース市場では、大きな変化が起こっている。PostgreSQLに代表される、オープンソース製品の導入・移行を検討する企業が急増しているのだ。しかも、大規模なエンタープライズシステムへの採用や、マルチデータベース化の事例も多いという。これからはデータベースエンジニアにも、より高度なオープンソースの知識やスキルが求められてくるのは間違いないだろう。株式会社アシストでデータベース技術者として活躍する小笠原宏幸氏は、「そのための基礎固めに、OSS-DB Goldへのチャレンジは最適」と語る。その理由や認定取得で得られるメリットについて、講演からダイジェストでご紹介しよう。
株式会社アシストの、小笠原宏幸です。現在はデータベース技術を担当する部門で、エンジニアリング、プリセールス、また今回のようなセミナーの講師も担当しています。私自身もOSS-DB Goldの認定を取得していることから、今回は、OSS-DB Goldがどんなことに役に立ったかなど、自分の経験も踏まえて「いま現場で実践スキルのあるエンジニアが求められる理由」と題してお話をしてみたいと思います。
本題に入る前に、そもそもなぜ私自身がOSS-DB Goldの認定を取得したのかという背景をお話ししましょう。一番大きかったのは、PostgreSQLのビジネスの広がりです。アシストも10年くらい前からPostgreSQLを取り扱ってきたのですが、近年はライセンスコスト抑制というニーズもあって、オープンソースへの移行を希望する企業が急増しています。
こうした変化を追い風に、当社の扱うPostgreSQL案件も非常に多くなってきました。また、こうした実績を重ねてPostgreSQLの機能も有償DBに負けないレベルに達し、大規模環境に導入する企業も増えてきました。もう、ひと昔前の「無料で気軽に使える」オープンソースではありません。エンジニアとしても体系的に、しっかりとした知識を学ぶ必要が出てきました。ではどうやって……と考えた時に、一番の早道が技術者認定の取得~OSS-DB Silver/Goldだと気づいて、私も認定取得を目指すことにしたのです。
今は多くの若手エンジニアの方が、さまざまな認定取得を目指して頑張っていますが、彼らも大きな関心は、やはり「どうやって勉強するのか?」ということです。学習にあたっては、試験対策問題集などもありますが、もっとも基本になるのはマニュアルです。とはいえ、ただ読むだけではなかなか頭に入りません。きちんと検証環境を作って、マニュアルを見ながら自分の手でコマンドを打って、動作を確認することが非常に重要です。文字通り「身体でおぼえる」のです。
また私の場合は、所属先が資格取得に非常に力を入れて、いろいろなサポートを社員に提供してくれているので積極的に利用しました。そうした中でもPostgreSQLのスキル習得には、「ポスグレ学園」という社内勉強会が2022年から実施されています。この中にテーマ別のワークショップがいくつもあるのですが、私は「OSS-DB Gold対策ワークショップ」に参加していました。
ワークショップでは、参加者が各自勉強した内容をフィードバックしあって、お互いに実力を高め合いながら、最終的に資格取得を目指します。1人だけで勉強していると、なかなかモチベーションを維持するのが難しいのですが、同じ目標を持つ仲間を持って、「負けられないぞ」と自分にプレッシャーをかけて頑張るのは、私にはかなり良い効果をもたらしました。
アシストでは、社内にOSS DB技術者育成のための「ポスグレ学園」を展開
なお、最近の話題としては、「ポスグレ学園」内のプロジェクトとして、OSS-DB SilverとOSS-DB Goldの問題集を制作、発刊の運びとなりました。特にOSS-DB Goldの方は、今のところ参考になる問題集も少ない状況なので、興味のある方はぜひ手にとっていただければと思います。現在はAmazonでプリント・オン・デマンド(POD)で販売していますが、近い将来にはUdemy版もリリースできる見込みです。
「ポスグレ学園」から生まれた、OSS-DB Silver/Gold対応の問題集
さて、一所懸命に勉強して、みごとOSS-DB Goldの認定を取得できても、実はそこがゴールではありません。ここで学んだ知識を、どう日々の仕事の中で生かしていけるのか。むしろ、ここからが本番の勝負なのです。では実際に、どんなところに役に立つのか。当社でもOSS-DBの資格取得者が増えて、あちこちで成果が挙がり始めています。ここでは、代表的なものを3つ選んでご紹介しましょう。
1つ目は、PostgreSQLに関する導入・運用各フェーズにおける内容を標準化して、ドキュメントとしてまとめたサービスガイドラインを策定できたことです。これは、例えばPostgreSQLの設計や導入、運用の各フェーズに関することがらを、利用するシステムに合わせて標準化して、ドキュメントとしてまとめたものです。
以前から、同様のユーザー支援サービスはあったのですが、社内に認定を取得したメンバーが増えてきたのを機に、これまでの内容を全面的に見直して、新しいガイドラインの立ち上げにつなげることができました。
現在は5つのガイドラインが用意されていて、データベース選定フローやデータベース設計など、初期段階の設計指針をまとめたもの。また運用フェーズでは、バックアップの考え方や、さまざまな機能実装について。さらにPostgreSQLのコーディングやパフォーマンスチューニングなど、分野別に整理されています。実際のシステム開発・導入でお客様のご要望に応じたカスタマイズを行う際など、これらのガイドラインが大いに活用されています。
PostgreSQLの導入~運用の各フェーズに応じた5種類のガイドラインを策定
これも、認定取得でPostgreSQLの高度な知識を習得したメンバーによって実現できた、新しいサービスです。具体的には、PostgreSQL環境のパフォーマンス分析を行うためのソリューションを提供しています。PostgreSQLのログ解析を行うpgBadgerや、パフォーマンスレポートを作成するpg_statsinfoといったツールサービスを、あらかじめソリューションに組み込んでご用意しています。
今回は、OSS-DB の認定資格についてお話ししてきましたが、認定取得を目指すにあたっては、その前提として「これから先、データベースエンジニアには、どんなことが求められているのか?」ということを、明確に見極めておく必要があります。そこで最後に、私たちが考える「いま現場で求められるエンジニア」になるための条件を、大きく2つお話ししたいと思います。
世の中ではいま、マルチデータベースエンジニアの需要が非常に高まってきています。昔のように、有償にせよOSSにせよ1種類のRDBMSを使い続けるのではなく、要件に応じて最適なデータベースを選んでいこうという風潮が強くなってきているのです。特にリプレース時に、そうした考え方に切り換える傾向が目立ちます。
エンジニア側も、お客様からそうしたご要望やご相談を受けた時に、的確なアドバイスや提案をできる能力を日頃から磨いておかなくてはなりません。さまざまなRDBMSの特徴を押さえながら、お客様の要件をヒアリングして、「それなら、このデータベースがお勧めです」と言えるエンジニアが、これから先は選ばれるのではないかと思っています。
お客様の要件に合わせた、最適なデータベース提案力が求められる
昔はOSSというと、比較的小規模の環境で使われるイメージがありました。しかし最近は、PostgreSQLならばバージョンアップするごとに大量データへの対応など、最初から大規模システムを意識した機能の追加が行われるようになっています。また、さきほども述べましたが、お客様の側からも積極的に大規模環境、エンタープライズ環境で使いたいというご要望が非常に増えてきています。
そうなればエンジニアの側も、単にPostgreSQLの環境構築や導入ができるだけではなく、例えば設計段階から大規模なデータを扱うことを意識した提案ができる。あるいは、大規模環境はデータ量も多く、パフォーマンスが問題になりやすいのですが、運用フェーズでもボトルネック分析をしてパフォーマンスチューニングを行えるスキルが必要になります。
またエンタープライズでは、データベース単体だけでなく他システムとの連携や、「設計・開発・運用」の各フェーズを見渡した考え方や対応ができるといった、システムアーキテクト的な視点も、将来的には求められてくるでしょう。
これからは、大規模システムにおけるPostgreSQL実装のスキルが必須に
私自身、上でお話ししたようなマルチDBのスキルや大規模環境への対応力といったニーズの高まりを、毎日のお客様とのやり取りの中で強く感じています。今後はそれを意識して勉強したエンジニアが重宝されることは間違いありません。
もちろんそれにはかなりの勉強、それも実務経験だけではなく、ある程度、体系化された網羅的な知識やスキルが必要になってきます。そうした基礎固めに使える1つの手段として、OSS-DB Goldはかなり役立つのではないかと、認定を取得した者の1人として考えています。将来、お客様から選ばれるエンジニアを目指そうという方は、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
© EDUCO All Rights Reserved.