LPI-Japanオンラインセミナー レポート
2023年7月26日開催「データベース技術を習得してワンランク上のエンジニアになるために~いま求められるスキルとその学び方~」より
富士通株式会社
ソフトウェアオープンイノベーション事業本部
ソフトウェアサービス技術統括部
横井 晴貴 氏
すでにわが国でも、DXが本格的な推進フェーズに入って久しい。その中で、ビッグデータ活用等に向けたデータベースの刷新、データレイクの構築などが急速に進み、データベース技術者にも新たな時代に向けたマインドと技術力が求められている。そうした時代にあって存在感を発揮し、顧客の期待に応えるDBアーキテクトになるには何が必要だろうか。富士通株式会社 横井晴貴氏による「現場のデータベース技術者が明かす、データベースエンジニアの心構えと実践事例」の講演内容からダイジェストでご紹介しよう。
富士通の横井 晴貴です。現在担当している業務には、大きく2つあります。1つはPostgreSQLのマイグレーションの提案・実施です。富士通では、PostgreSQLのデータベースである「Enterprise Postgres(エンタープライズ ポストグレス)」を提供しており、そちらも担当しています。2つ目は、ISV(独立系ソフトウェアベンダ)製のミドルウェアを活用した、データベースのデータ移行や連携の提案・実施を主とした業務を行っています。
今や、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を聞かない日はありませんが、そこでしばしば言われるのが、「データベースがDX推進の鍵をにぎる」という言葉です。データベースエンジニアを目指す若手の方々にとって、この言葉は目指すべき方向を探る重要なヒントになります。まずは、その理由を説明していきましょう。
そもそもDXとは、経済産業省のDX推進ガイドラインによれば「データとデジタル技術を活用し、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス企業、文化風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義されます。DXは、デジタル技術を導入することが目的ではありません。デジタルを使って既存の組織や仕事の仕方、考え方や文化を『変革』し、激しい変化の時代を生き抜く力をつけることが本来の目標なのです。
このため、一見デジタルテクノロジーとは無縁に見える場所にも、DXは効果をもたらします。私の故郷、佐賀県では江戸時代から伝わる名産品の羊羹(ようかん)が、若い人に全く売れなくなっていました。そこで佐賀県と地元のメーカーが、顧客情報や経営情報、地域の情報などのデータを分析。その結果をもとに新商品を開発し、羊羹をカラフルなキューブ状のお菓子に生まれ変わらせた結果、大きな話題を呼び、売上も回復したのです。
この例でも分かるように、DXの中核には必ず多種多様なデータの蓄積、すなわちデータベースが存在します。現在DXに取り組む企業は、金融、電気・ガス、建設業、製造業を始め、あらゆる業種にわたり、彼らは口々に「データの利活用」や「データドリブン経営」の必要性を強調しています。データベースはあらゆる企業にとって、将来の可能性の源泉であり、変革の原動力だと言っても過言ではないでしょう。
一方で、今後データは飛躍的に増加を続けることが予測されています。そのビッグデータを的確に処理し、有効活用するために、データベースにはこれまで以上に高い信頼性や多様性、そして安定性が求められてきます。そこに対応するために現在多くの企業では、データベースの刷新&強化が急ピッチで進められているのです。
データベースを新しくする際には、古いデータベースからのマイグレーション(移行)が必須かつ重要な作業になりますが、さまざまな難しい課題があります。データベースはいくつかのレイヤで構成されており、とりわけ業務に近い「アプリ層」とITに近い「インフラ層」をバランスよく設計することが、マイグレーションを成功させる重要なポイントです。DX時代のデータベースエンジニアには、ビジネスとシステムの双方に精通し、両部門の橋渡し役ができる高度なスキルが求められてくるのを、まずは心に留めておいてください。
では、「DX時代のデータベースエンジニア」が身につけておくべきスキルとは、具体的にどんなものでしょう。大きく、下の3つの能力が挙げられます。
特に現在は、クラウド型のデータベースが日常的に使われているため、データベース技術者といえども、クラウドに関する知識を深めることが、データベースのよりよい活用につながります。こうした幅広い技術領域に精通したエンジニアは、前章で触れた「部門間の橋渡し役」として、周囲の人々から期待される人材になるのは間違いありません。
私が富士通に入社して間もない頃、テレビ局向けのシステム開発にアプリケーション開発者として参加していました。ある時、お客様からデータベースが遅いと言われたのですが、アプリの知識しかないため原因が特定できず、自分では解決できなかったくやしい思い出があります。その後もいろいろな経験を重ねることで、アプリとデータベースは密接な関係にあり、幅広いスキルが必要だというのを、ようやく実感できるようになったのです。
上の「3つのスキル」に加えて、もう1つ重要なのが「マインド」です。これは具体的には「冷静さ」「柔軟さ」そして「トラブルへの対応力」になります。
ITの社会的な広がりを反映して、現在はミッションクリティカルなシステムが多数稼動しており、24時間・365日のサービスを提供しているものも少なくありません。そのデータベースにトラブルが発生し、サービスが停止したら社会に重大な影響を及ぼしてしまいます。しかもトラブルというのは必ず発生し、発生したら非常に迅速な対応が求められ、しかもミスは絶対に許されません。焦って失敗したら、2次被害を招くこともある。データベースエンジニアに冷静で柔軟なマインドが必要だというのは、そういうことです。
いついかなる時にも焦って拙速な対応をしたり、パニックに陥って何もできなくなるということがあってはなりません。これはマインド=心構えであると同時に、上の「3つのスキル」を的確かつ最大限に発揮するための上位スキルと呼んでもよいかもしれません。
前章まで、DX時代のデータベース技術者の心構えや、必要なスキルについて紹介してきました。ここからは、実際にスキルアップするための学習方法と、OSS-DB技術者認定試験による認定取得についてお話ししていきます。
学習方法には人それぞれにさまざまなスタイルがありますが、データベース初学者にぜひお勧めしたいのが、認定資格へのチャレンジです。というのも、認定資格には学ぶべき内容や認定要件が明確に示されているため、目標を具体的に定めて学習を進められるからです。さらに合格すればそれが大きな達成感になり、次のスキルアップへの意欲につながります。
富士通はPostgreSQLのデータベース製品である「Enterprise Postgres」を提供していることもあり、データベース技術者の育成に非常に大きな力を注いでいます。当社の認定資格である「富士通ソフトウェアマスター」のデータベース分野では、資格試験にLPI-JAPANのOSS-DB技術者認定試験である「OSS-DB Exam Gold」「OSS-DB Exam Silver」を採用。同時に、OSS-DBの認定取得者が申請すれば、富士通ソフトウェアマスターの認定資格を与えるといった相互連携を行って、データベース学習環境の充実を図っています。
OSS-DB技術者認定試験は、データベースを体系的に学べる点が大きな特徴です。まず「OSS-DB Exam Silver」で基礎スキルや開発スキルを習得、さらに「OSS-DB Exam Gold」では実践力を身につけるといった、無理のないステップアップが可能です。またGoldの出題項目には障害対応なども含まれ、トラブル対応や要件定義の注意点といった非機能要件に関するスキルも幅広く学べます。
この他、社内のトレーニングも多彩なコースが用意されています。その1つ、「Enterprise Postgres DB構築と運用実践」は、eラーニング形式でありながら、クラウド環境にある実機を使った実習を受けられるユニークな構成が好評です。こうしたトレーニング活用の成果として、LPI-JAPANの2022年度 OSS-DB認定者数の企業ランキングで、Sliver、Gold共に1位を獲得しました。この時のLPI-JAPANによるインタビュー記事でも、OSS-DBを学ぶことで身につく実践力などについてご紹介しています。ぜひご一読ください。
最後に私のデータベースの実務経験から、自分なりにスキルを発揮できたと思う実践事例を2つご紹介したいと思います。
データベースのマイグレーションでは、しばしばお客様から「現行を踏襲してほしい」という依頼を受けます。お客様にしてみれば、今までと変わらない環境で同じ業務ができる方がよいと考えるのが当然です。ところが技術者側から見た場合、新しいデータベースへの移行は単純にデータを移し替えるだけでは済みません。性能や運用性、可用性といった、データベースの非機能要件を十分に考慮する必要があります。
加えてSQLやストアドプロシージャ、オブジェクト、データ型、アーキテクチャといった、実にさまざまな観点から現行のデータベースと新しいデータベースとのフィット&ギャップを行っていかなくては、最終的にビッグデータを的確かつ高速に処理できるデータベースにはなりません。
私が担当したマイグレーション案件でも、「どのように実現するのか」「何を変換すべきか」「同等の機能がない場合はどうするのか」といった課題が次々に出てきましたが、そのつどPostgreSQLの機能で代替する方法やデータ構成、データ型やSQLの違いをお客様に具体的に説明した上で、その解決方法について提案・説明することができました。
これらは、個々の知識として持っているだけでは使えません。日頃の実務経験やトレーニングを通じて、その知識を「どんな時にどう使うか」というスキルとして身につけていたことが、課題解決に大いに役立ったと、嬉しく思ったものです。
「データベースの監査情報を取得してほしい」というお客様に、監査ツールを導入した時のことです。データベースに負荷の少ないメモリ参照型のツールを選んだ提案を気に入ってくださり、導入作業を開始しました。ところがその直後、「DBサーバーが過負荷でダウンして業務が止まった。導入作業が原因ではないか」とお叱りをいただいたのです。
すぐに調査を開始し、DBサーバーの状態確認から運用で起こりうる障害パターンの調査、起こっている事象の洗い出しなど、あらゆる角度から検証を進めた結果、導入作業が原因ではないこと、PostgreSQLのバグが原因であったことを短時間のうちに突き止めました。そして解決までの間、随時お客様に説明・提案しながら短期間で解決できた結果、さらなる信頼関係の構築につながりました。
もしこの時、私が第2章で触れた、経験も少なくアプリの知識しかない若手のままだったら、とても短時間のうちにあらゆる可能性を想定した検証を実施し、顧客に説明しながら的確な解決案を出していくといった動きはできなかったでしょう。やはり自分なりに頑張ってスキルを積んだかいがあったと、胸をなでおろしたものです。
最後になりますが、データベースはシステムの中核であり、企業の経営や社会基盤を支えるとなる重要な存在です。DXがさらに進み、世の中のあらゆる場所にデジタルを使ったサービスやシステムが展開した時に、皆さんは社会にとってなくてはならない人材になるはずです。その時に幅広いスキルを身につけているデータベースエンジニアこそが、人材市場から求められる技術者であり、そうした強みを持ったデータベース技術者をぜひ目指してください。
富士通のパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。近い将来、その実現に向けてみなさんと一緒に働けることを楽しみにしています。
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